インジゴ薄膜/誘電体薄膜界面の構造と積層によるトランジスタ特性 ![]() ![]() 藍の染料として知られるインジゴは,実は有機半導体の中でもバンドギャップが小さく,両極性を示す非常にユニークな性質を持つことでも知られます。このインジゴのトランジスタを作製する際に,誘電体膜としてテトラテトラコンタン(TTC)薄膜を用いますが,このTTCとインジゴの積層界面での分子配向を振動和周波発生で,界面電子状態を電子和周波発生でそれぞれ調べ,そのトランジスタ特性との関係を調べたところ,TTC薄膜の挿入によりインジゴの結晶性が向上することが見出されました。さらにTTC膜を窒素雰囲気下で70℃でアニールするとさらにインジゴの結晶性は向上します。この作用は,TTC薄膜表面が平滑になることによりもたらされますが,同時にトランジスタ特性も飛躍的に向上することがわかりました。他の有機半導体においても,TTC膜を用いることで,同様な有機半導体の結晶性の向上が見られますが,界面でのTTC膜の配向秩序は,積層する有機半導体により異なっていることが新たにわかりました。このことは,@有機半導体の積層と結晶化に伴って,界面の分子配向秩序は影響を受けること,Aその配向秩序性は有機半導体の極性により大きく変わること,BTTCは,単に基板の分極や電荷トラップを抑制する以上の効果をもたらしていることを示唆しています。 K. Tanoue, H. Ishii, C. L. Marsters, S. T. Roberts, T. Miyamae, J. Chem. Phys., 162 (2025) 014704. 絶縁膜界面の構造とデバイス特性 |
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![]() 近年、Al蒸着膜の陽極酸化による酸化アルミニウムとアルキルホスホン酸単分子膜の組み合わせを用いたゲート絶縁膜により、製作が容易で低電圧駆動可能な有機トランジスタ(OFET)が報告され注目を集めている。この酸化アルミニウム上のアルキルホスホン酸単分子膜の分子配向と、トランジスタの特性との関連に着目して解析を進めた。 浸漬法、スピンコート法により酸化アルミニウム上に作成したオクタデシルホスホン酸(ODPA)単分子膜のSSP偏光組み合わせで測定したCH伸縮領域のSFGスペクトルを示す。ODPA溶液に浸漬して作成した単分子膜では、2881 cm-1と2944 cm-1にアルキル末端のメチル基由来のCH3対称伸縮とフェルミ共鳴に由来する振動が観測される。これに対して、同溶液を酸化アルミニウム上にスピンコートして作成した基板では、CH3由来の振動に加え、2860 cm-1と2923 cm-1にそれぞれCH2対称伸縮、逆対称伸縮振動が見られる。 この単分子膜基板上にポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)を乗せてOFETを作成すると、移動度のデータのバラツキが、浸漬法>スピンコート法となる。両者の基板の表面自由エネルギーは、浸漬法<スピンコートとなっており、スピンコートで作製したODPA単分子膜の表面自由エネルギーがP3HTの表面自由エネルギーにやや近い値を示す。このことは、有機半導体界面での接合における接着仕事の関係で説明することができる。異種材料の接合においては、両者の表面自由エネルギーが近いほどよく接着することが知られている。浸漬法で作製したODPA単分子膜はCH3末端が表面に集まるため表面自由エネルギーが下がり、P3HTの表面自由エネルギーとの差が大きく、分子レベルでの接着性が低下している。このことがデバイスとして作成した際の移動度のバラツキとなって表れたと考えられる。また、各デバイスのしきい値電圧もスピンコート法で作製したOFETの方が低下しており、膜配向の制御においては、異種材料の接合に際しての界面自由エネルギーを考慮することが重要であることが示唆された。 C. Katagiri, K. Akaike, T. Miyamae, Org. Electron., 86 (2020) 105928. |
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