液体界面の研究



液体表面の分子の情報を調べる手法は限られますが、SFG分光法はこの液体表面の分子の振る舞いを観ることのできる数少ない手法の一つです。


サポニン類界面活性剤水溶液表面の分子配向


エスシン水溶液表面の分子配向
天然の界面活性剤として知られるサポニン類について,その水溶液表面の分子配向をSFG分光と分子軌道計算による構造最適化により解析した。下限臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度では,疎水部分は水面でほぼ垂直に配向しているが,cmc以下になると分子配向は傾くようになる。この傾き方は水溶液のpHに依存するが,これは親水部分のカルボキシル基の水素が解離し,電荷を持つことで静電的な反発を生じているためであると推定された。
Y. Kagiyama & T. Miyamae, J. Raman Spectrosc. 53, 1820-1827, 2022.


ビール表面におけるイソフムロン分子挙動と泡の安定性に関する研究
 ビールの泡の安定性と表面の分子種との相関そ調べるために、SFG分光により ビール表面の分子種の同定とその挙動、泡の持続性との関連を調べた。 ビールの表面には、ホップ由来の苦み成分であるイソフムロン分子が存在しており、また同時に疎水性たんぱくの存在を確認することができた。またこのイソフムロンの存在量とビールの泡の持続性は良い相関を示しており、イソフムロンが表面に多く存在するほど泡の持続性が良くなるという結果を得た。さらにイソフムロンとタンパクは表面で強く相互作用して存在しており、強固なネットワークを形成している。このことが泡の持続性に作用していることが示唆された。
T. Miyamae et al., Chem. Lett., 47, 1139-1142 (2018).

硫酸水溶液表面の酸解離状態の研究
 SFG分光を用いて硫酸水溶液表面の構造を解析するために、表面に存在する硫酸イオン由来のS=O伸縮振動について硫酸水溶液の濃度を変えながら測定を行った。1060 cm-1にHSO4-イオン由来のSO対称伸縮振動が見られ、硫酸濃度がモル分率0.4までピーク強度が増加していた。さらに高濃度では硫酸分子由来のSO2対称伸縮振動が見られ、これらのピーク挙動から、硫酸水溶液表面での酸第一解離はバルクとほぼ等しい濃度であることが分かった。この結果は硫酸種の、表面での硫酸の第一解離状態を分離して測定した初めての例である。
Phys. Chem. Chem. Phys., 10, 2010-2013, 2008.

ソフトコンタクトレンズ界面の研究

ソフトコンタクトレンズ表面および水と接触した際の界面の分子挙動、水の挙動についてSFG分光を用いて解析を行った.空気中と生理食塩水中では高分子の配向が異なっており、コンタクトレンズを構成するハイドロゲルに含まれるカルボニル基は水中でのみ界面に現れる。また用いた材料の種類を変えると水分子の挙動が変わる様子が観測された.
伊藤 裕治 他. 高分子論文集, 65, 27-33, 2012.

イオン液体表面におけるアニオン種の挙動の研究


イオン液体[BMIM]OTfの化学構造
新奇な液体であるイオン液体表面におけるアニオン種の構造をSFG分光を用いて解析した。OTfアニオン由来のCF3対称伸縮、SO3対称伸縮が明瞭に観測され、そのピーク形状からCF3が空気側に向き、SO3はバルクのほうに向いていることが分かった。SO3対称伸縮のピーク幅はバルクの赤外吸収で見られるピーク幅より小さく、表面がバルクより均一な環境であることを示唆している。
T. Iwahashi et al., J. Phys. Chem. B, 112, 11936-11941, 2008.