有機デバイスのオペランド計測



二重共鳴SFGを用いた機能界面の研究
 SFG分光では、表面や界面で起こる2次の非線形光学効果を誘起し、振動スペクトルを取得するため、波長可変の赤外レーザー光と波長固定の可視レーザー光を使用 します.2つの光によって基底状態から励起されるエネルギー準位は仮想的な準位であり、通常SFGスペクトル形状や強度には影響を及ぼしません.しかしながら有機物によっては、赤外光波長+可視励起光波長のエネルギーに吸収を持つものもあります.このような場合、SFGで見られる振動スペクトルはこの光学遷移の影響を強く受け、様々な変化が現れます.この変化を詳細に調べることにより、分子の配向だけでなく、界面の化学反応や電子状態を追跡することが可能になります.


二重共鳴SFGによる高分子EL/電極界面の解析


PFO/電極界面のSFGスペクトルの
励起波長依存性
 可視光波長可変の二重共鳴SFG分光法を用いて、高分子EL材料に用いられるpoly(9,9-dioctylfluorene)(PFO)の表面及び電極との界面の構造と最低励 起挙動の解析を行いました。その結果、(1)PFOの主鎖に由来するCH伸縮振動の配向解析とピークの励起波長依存性から、PFO主鎖は表面に水平に近い配向を取っている。(2)伸縮振動のピーク強度の励起波長依存性から、表面・界面における最低励起(界面のバンドギャップ)は、アモルファス状態のバルク のそれより小さくなっていることが見出されました。これらのことからバルク中でのPFO主鎖は捻じれを有していますが、表面・界面ではこのねじれ角が抑制され、隣接するフルオレン骨格間でπ共役が長くなったことが示唆されます。
T. Miyamae et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 12, 14666-14669, 2010.

二重共鳴SFGによるAlq3/Al電極界面の解析


Alq3のSFGスペクトルの励起波長依存
 可視光可変の和周波発生分光(SFG)を用いて、有機 ELデバイスにおいて電子輸送、発光層に用いられるAlq3とAlとの接触界面及びLiF層の挿入効果を検討しました。Al上にAlq3を2 nm蒸着した試料では2重共鳴効果によるC=C伸縮振動の明瞭な波長依存性が確認されます。一方Alq3積層膜上にAlを積層させた場合には、C=C伸縮振動の2重共鳴効果は消失しました。またLiFを挿入した場合、C=C伸縮振動のピーク位置の低波数シフトが観測され、界面でAlq3へのLiドーピング効果が示唆されました。
T. Miyamae et al., J. Phys. Chem. C, 115, 9551-9560, 2011.

有機EL素子内の電荷蓄積挙動

電圧印加状態の有機ELのから得られた
SFGスペクトル
 SFG分光では、対象とする試料に電場が働くと、その電場成分に応じてSFGの信号強度が変化する、『電界誘起』と呼ばれる現象が起こります。この現象を利用して、駆動中の有機ELを基板越しに測定すると、電荷が集中する(蓄積する)有機層の信号が非常に強くなることを見出しました。
T. Miyamae et al., Appl. Phys. Lett., 101, 073304, 2012.

連続駆動した有機ELの劣化解析
 Alq3/NPDの典型的な2層構造の有機ELに対して、電界誘起SFGを用いて、連続駆動によっておこる素子の変化を追跡しました。この素子ではAlq3の信号が強く観測され、しかもAlq3層の膜厚に応じてSFGの信号強度が変わります。これは真空蒸着によりAlq3が法線方向に 自発分極を持っているためで、SFGでは膜内の配向成分を強く観測していることになります。連続駆動することによってこのAlq3由来のSFGの信号強度の低下が見られますが、これはこの自発分極成分の減少により説明することができます。連続駆動して劣化したAlq3/NPDの有機ELでは駆動電圧の上昇が見られますが、この電圧上昇は自発分極成分の消失、すなわち配向の乱れによるものであることを明らかにしました。

T. Miyamae et al., Chem. Phys. Lett., 616, 86-90, 2014.

時間分解電界誘起SFGによる有機ELの電荷輸送の解明
 有機EL素子内を移動する電荷を追跡するためには、時々刻々と変化する電荷の様子を「スナップショット」として連続写真のように観測する技術が有効です。SFGのレーザー、検出系、EL発光検出器、パルス電圧発生器を連動(同期)させて、有機EL素子内に注入された電荷が、どのような挙動をしているのかを追跡する技術を開発し ました。

T. Miyamae et al., Appl. Phys. Express, 10, 102101, 2017.